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(コラム)賢い賃貸借契約書の作り方

第1 賃貸借契約書を見直す目的とは

賃貸借継続中及び賃貸借終了の際の、借主とのトラブルを未然に防止するため、
現在使用中の賃貸借契約書を見直してみましょう。

●判例(最高裁判所)が、賃貸借契約書の条項の有効・無効を判断するために、重視している事項は、以下の①②③とみられます。
①借主に賃料以外の債務負担をさせた場合、使用の対価の二重取りにならないか
(不当性)
②貸主は賃貸経営を業としており、コスト計算を容易にできるが、借主はコスト計算ができないので予期せぬ支出を強いることにならないか
(情報力の格差)
③消費者である借主が、事業者である貸主と契約条項の修正削除をめぐって交渉することは期待しがたいのではないか
(交渉力の格差)
 
上記①②③の点については、貸主側として反論したい事もありますが、いずれにしても債務負担の趣旨、範囲・金額等を、賃貸借契約書と重要事項説明書,その他必要書類等に「明記し」、賃借人に「説明し」、「理解させ」、賃借人と「合意する」ことが大事です。

●居住用建物を賃貸する場合に注意しなければならない条文は・・・
【消費者契約法10条】(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
民法 ,商法,その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって(前段)
民法第1条第2項に規定する基本原則(信義則)に反して消費者の利益を一方的に害するものは(後段)無効とする。

(参考判例)京都地裁平成16年3月16日判決
消費者契約法は,平成13年4月1日以降の消費者契約に適用があるところ,本件賃貸借契約はもともと同日以前の契約であったが,更新合意が同日以降になっていることから,更新合意による上記条項の合意には同法の適用がある。

第2 賃貸借契約書の問題となる約定とは・・・

1. 敷引特約について

敷引特約とは、敷金(または保証金)から退去時等に一定割合を控除して返却するという特約ですが、平成23年に相次いで出された最高裁判決は、敷引特約を「消費者契約法10条により無効であるということはできない」としています。
 
いずれも,京都市における居住用建物の賃貸借契約における敷引特約の問題であり,判決が,敷引が商慣習であるという点を判断材料にしている点から,敷引が商慣習上ない関東地区での導入には、慎重であるべきでしょう。
 
参考判例
◆平成23年3月24日 最高裁第一小法廷判決

消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は,信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできないが,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる損耗や経年により自然に生ずる損耗の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものであるときは,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となる。
 
消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は,賃貸借契約締結から明渡しまでの経過期間に応じて18万円ないし34万円のいわゆる敷引金を保証金から控除するというもので,上記敷引金の額が賃料月額の2倍弱ないし3. 5倍強にとどまっていること,賃借人が,上記賃貸借契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等の一時金を支払う義務を負っていないことなど判示の事実関係の下では,上記敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず,消費者契約法10条により無効であるということはできない。」 

◆平成23年7月12日 最高裁第三小法廷判決
「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付されたいわゆる敷引特約は, 保証金から控除されるいわゆる敷引金の額が賃料月額の3. 5倍程度にとどまっており,上記敷引金の額が近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引特約における敷引金の相場に比して大幅に高額であることはうかがわれないなど判示の事実関係の下では,消費者契約法10条により無効であるということはできない。」(補足意見及び反対意見がある。)

2. 更新料特約について

居住用建物賃貸借の更新料特約については,平成23年7月,最高裁が有効という判決を出しました。なお居住用以外建物賃貸借,借地契約の更新料については,まだ最高裁判決は、ありませんが、同様に有効と考えてよいと思います。
 
仲介会社等に契約更新の際、手数料を払う負担等を考えると,更新料条項は是非とも入れたいところです。更新料については、金額を明示すること(例―更新時新賃料の1か月分),及び更新期間と比べて更新料が高額でないことが、必要です。首都圏では2年ごとに賃料の1ヶ月~1.5ヶ月の更新料を払うという条項が多いです。
 
契約更新して居住継続して下さる賃借人は、ありがたいお客様と考え、更新後のサービスや更新特典等で柔軟に対応された方が、お得だと思います。
 
参考判例
◆平成23年 7月15日 最高裁第二小法廷判決
「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項(㊟下記の条項)は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない。
 
第2条 契約の更新
乙は,契約を更新するときは,契約期間満了までに更新書類提出とともに,頭書(2)の更新料(賃料の2か月分相当額)の支払いを済ませなければならない。また,法定更新された場合も同様とする。なお,契約更新後の入居期間にかかわらず更新料の返還は一切応じない。
乙は甲に対し,法定更新・合意更新を問わず,契約開始日から1年経過する毎に更新料を支払わなければならない。

3.原状回復特約について

借主との間で一番トラブルになりやすい部分です。居住用賃貸借においては、消費者契約法の適用があり、判例,標準契約書,原状回復ガイドラインの考え方は,原則取り入れるべきです。原状回復が借主にとって不利と感じると,部屋を借りてくれなくなる可能性があり、原状回復で揉めてしまうと,時間的にも経済的にもマイナスが大きいです。
 
【判例,標準契約書等の考え方】

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参考判例
◆平成17年12月16日 最高裁第二小法廷判決
「賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は,通常,減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。
 
そうすると,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,通常損耗補修特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。」
 
標準契約書に添付された別紙,原状回復ガイドラインを上手に活用して、具体的に、借主にも分かりやすい特約条項の作成を心がけ,「原状回復一覧表」もその内容を分かりやすいものにすることが大切です。
 
(例)床についての賃借人の原状回復義務
・毀損部分の補修
・カーペット,クッションフロア
 :洗浄等で落ちない汚れ,毀損等が複数個所にわたる場合は,当該居室全体
 :設置から2年経過による残存価値は70%,同4年経過による残存価値は40%,同6年経過による残存価値は10%として負担割合を算定する。
・フローリング
 :原則㎡単位。毀損等が複数個所にわたる場合は,当該居室全体。
 :フローリングの経過年数は考慮しない。

どうしても通常損耗についての原状回復も借主に行わせたい場合には,状況に応じて,具体的に特約条項を設け,借主に合意してもらうことが必要です。
 
(契約例)
室内でペット飼育を認め,その分家賃を増額しない代わりに,壁クロスの張り替え費用全額を賃借人の負担とすることに合意します。なお、事務所や店舗用の賃貸借については、消費者契約法の適用がなく、国土交通省の原状回復ガイドラインに従う必要はないと考えます。
 
しかし、原状回復の内容について契約終了時のトラブルを回避するため、契約書に別紙を添付し、原状回復すべき内容を、具体的かつ詳細に定めた方がよいでしょう。

4.暴力団等反社会的勢力排除条項

東京では,平成23年10月に暴力団排除条例が施行されました。現時点では,暴力団等反社会的勢力排除条項を設けることは,法的制裁のない努力義務にすぎません。
 
しかし,暴力団等反社会的勢力と周辺住民との間に法的紛争が生じた場合に,不動産賃貸借契約書に暴力団等反社会的勢力排除条項が欠落していたとなると,その紛争に巻き込まれかねません。
→平成23年10月以前から契約を続けている借主については,賃貸借契約書の見直しが必要です。
 

5.ペット飼育特約について

空室対策としてのペット飼育を認めることがありますが、ペットの鳴き声や悪臭で近隣に迷惑をかけ,他の借主が退出してしまうケースもないわけではありません。
したがって、以下のような条項を特約で設けることが必要です。
 
①ペット飼育を認める場合でも室内飼育できる一定範囲の小動物に限定させる条項
②ペットの鳴き声や悪臭等で隣室や近隣から 苦情が出ないよう義務を課し、万一 苦情が出た時は借主の費用と責任で解決する条項
③ペット飼育について複数の人または一定回数以上苦情が出た場合、貸主が当該苦 情を相当と認めるときは、ペット飼育を直ちに止める条項
④これらに違反した場合には、賃貸借契約を貸主が解除できる条項
⑤ペット飼育していた貸室の原状回復費用を通常より割増した金額とし、かつ差額 が出ても返金しない旨の条項
なお、下級審判例ですが、ペット飼育を借主に認める場合の賃料増額の合意や通常より増額した定額補修費の合意が有効とされています。但し同判例は実際かかった費用が定額補修費の金額より下回ったときは、差額を返金しない旨の合意がない時は差額分を返金すべきと判断しています。したがって割増し定額補修費を約定したときは差額が生じても返金しない旨を定めることが必要です。
 

6.定期借家契約をする場合について

契約で定めた期間の満了により更新されることなく確定的に借家契約が終了する契約が、定期借家契約です(平成12年新設)。
 
定期借家契約は、
①契約期間の定めを設けること,
②契約は書面で行うこと,
③契約の前に借主に対し,契約の更新がなく期間満了により賃貸借が終了することを記載した書面を交付して,説明すること
 
等,厳格な要件が定められています。なお,平成12年3月1日より前に締結された普通建物賃貸借については、従前どおりの契約更新がされます。

7.(参考)国土交通省公表の「賃貸住宅標準契約書」(平成24年2月改訂)のコメント(一部)

(http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/keiyakusho.htm)

(敷金)第6条

乙は、本物件を明け渡すまでの間、敷金をもって賃料、共益費その他の債務と相殺をすることができない。

甲は、本物件の明渡しがあったときは、遅滞なく、敷金の全額を無利息で乙に返還しなければならない。ただし、甲は、本物件の明渡し時に、賃料の滞納、第14条に規定する原状回復に要する費用の未払いその他の本契約から生じる乙の債務の不履行が存在する場合には、当該債務の額を敷金から差し引くことができる

 
第2項
賃貸借契約中,敷金と賃料滞納分との相殺を主張する賃借人が稀にいますので,条項の必要があります。なお,判例は,賃借人の敷金返還請求権は,建物明渡時に発生すると解釈していますので,判例の解釈に従えば,そもそも建物明渡し前の敷金返還請求権との相殺は認められません。
 
第3項
原則とただし書きが,賃借人に有利に規定されています。「~を敷金から控除し残額がある場合には返還する」内容にするべきです。
 

(明渡し)第13条 

乙は、本契約が終了する日までに(第10条の規定に基づき本契約が解除された場合にあっては、直ちに)、本物件を明け渡さなければならない。

乙は、前項の明渡しをするときには、明渡し日を事前に甲に通知しなければならない。

 
・鍵の引渡し方法,残置物の処理(処理時の費用負担)等,実際に起こりうる問題を想定して,条項の追加が必要です。
・明渡しが遅滞した場合の,遅延損害金の条項を追加して設けるべきでしょう。
・連帯保証人が欠落した場合の,連帯保証人の補充手続条項が必要です。

(連帯保証人)第16条 
連帯保証人(以下「丙」という。)は、乙と連帯して、本契約から生じる乙の債務を負担するものとする

また,以下の条項の補充が必要です。

●賃借人の善管注意義務に関する条項
火災発生防止義務、管理規則・使用細則等遵守義務などです。

●賃借人の債務支払全般に関する遅延損害金の条項
賃貸借契約期間中賃借人に請求するかどうかは別として,紛争が生じる場合を想定して規定する必要があります。

原状回復については,「別表5」が用意されていますが,これを添付するだけですべて問題がなくなったというわけではありませんので,状況に応じて,賃借人に分かりやすい条項,別表の作成が必要となるでしょう。

(参考資料)
◆平成23年 3月24日 最高裁第一小法廷判決事件における建物賃貸借契約書です。(概要,公表されている判例集からの抜粋)

第3条
乙は,本件契約締結と同時に,保証金として40万円を甲に支払う。
 
本件保証金をもって,家賃の支払,損害賠償その他本件契約から生ずる乙の債務を担保する。
 
乙が本件建物を明け渡した場合には,甲は,以下のとおり,契約締結から明渡しまでの経過年数に応じた額を本件保証金から控除してこれを取得し,その残額を乙に返還するが,乙に未納家賃,損害金等の債務がある場合には,上記残額から同債務相当額を控除した残額を返還する。
     経過年数1年未満  控除額18万円
         2年未満     21万円
         3年未満     24万円
         4年未満     27万円
         5年未満     30万円
         5年以上     34万円
 
第5条
本件建物の家賃は,1か月につき9万6000円とする。
 
第19条
乙は,本件建物を甲に明け渡す場合には,甲の指示に従い,これを本件契約開始時の原状に回復しなければならない。ただし,別紙「損耗・毀損の事例区分(部位別)一覧表」の「貸主の負担となる通常損耗及自然損耗」については,3条の保証金控除額でまかなうものとし,原状回復を要しない。なお,同表の「借主負担となるもの」については,乙の費用負担で原状回復をするものとする。
損耗が乙の故意・過失による場合は,その原状回復費用は乙の負担とする。
乙が原状に復さないときは,甲が乙に代わってこれを実施し,その費用は乙の負担とする。
部屋の損傷状態がひどく,その原状回復費用が乙に対する保証金返還額を超過した場合は,その超過額は乙が支払う。
原状回復費用は,家賃に含まれないものとする。

別紙「損耗・毀損の事例区分(部位別)一覧表」(一例)
●貸主の負担となる通常損耗及自然損耗
①畳の裏返し,表替え(特に破損していないが,次の入居者確保のための行為)
②フローリング・ワックスがけ
③家具の設置によるカーペットのくぼみ,設置跡
④畳の変色,フローリングの色落ち(日照,建物構造欠陥による雨漏りなどで発生したもの)
 
●借主の負担
①カーペット等の飲み物等をこぼしたことによるしみ,かび
②引越し作業で生じたひっかき傷
③フローリングの色落ち(借主の不注意で雨が吹き込んだことによるもの)
④キャスター付きのいすによるフローリングの傷へこみ
⑤たばこ等によるこげ跡,落書き

その他
・重要事項説明書 保証金解約引きの記載あり
・保証金以外の一時金の支払いなし
 
◆平成23年7月12日 最高裁第三小法廷判決事件における建物賃貸借契約書です。
(概要,公表されている判例集からの抜粋)

第7条(保証金)
乙は,本契約締結時に保証金として標記(5)記載の金額(100万円)を甲に預託する。ただし,保証金には利息をつけないものとする。
乙に賃料その他本契約に基づく未払債務が生じた場合には,甲は任意に前項の保証金をもって乙の債務弁済に充てることができる。
本契約が終了して乙が第21条による本件貸室の明渡しを完了し,かつ本契約に基づく乙の甲に対する債務を完済し,かつ,電気・水道・ガス等の公共料金支払を完了したときは,甲は標記(5)記載の保証金(100万円)のうち標記(5)記載の預託分(40万円)を乙に返還する。
 
第21条(原状回復及び明渡し)
乙は本契約終了までに本件貸室を明渡さないときは,本契約終了の翌日から明渡し完了に至るまでの賃料の倍額に相当する損害金,並びに共益費,光熱費,給水費等その他必要経費を明渡し完了の際に甲に支払い,かつ明渡し遅延により甲が損害を被ったときは,その損害を賠償しなければならない。
 
管理物件特約
本物件を退去したる場合,第14条及び第21条に相当する修理義務及び室内の殺菌,クリーニングを乙の負担でするものとする。